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木の下隠り :其の七

 

(そんなあだっぽいしなを作っても許しはせぬ。さあ、殺生丸さま・・・)

 体の冷たくなるような感じとともに、殺生丸の金色のひとみが大きく見開かれ、しなやかな体は極限までたわめられてのけぞった。一気に血の気がひくような苦痛な最後の瞬間に追いあげられて、ついに妖怪の冷静な心を絶頂のそれが貫いた瞬間、白い肉体はついに力を失って、奈落のふところに倒れこんできた。抱き寄せる奈落の息も荒かった。

(殺生丸・・・貴方様を屈服させるのは、確かに、容易ではないわ・・・・これで終わったと思われるな・・・・夜は長いのだから)

 縛られていた体がとつぜん解放され、しびれた手足に血の気が戻ってくる。疲れきって針を刺すような痛みに耐えながら、殺生丸はたった今自分の体を手ひどくもてあそんだ当の相手の肩に頭をあずけたまま、なおも続くらしい次の仕打ちにそなえて、乱れた息をととのえようとした。

(もういい、頼む、もうやめろ)

 喉まで出かかった言葉を殺生丸はかろうじて押し戻した。

奈落の手が物欲しげに両の二の腕をなでさすり、飽きもせず肌を愛撫するのが感じられる。わずかの間だけ手元における珠玉を撫でさするように、奈落は殺生丸の真珠のような柔肌を飽かずなぶり続けずにはいられないのだった。

自分の体を虐げるその手つきを、殺生丸は奴隷の粗野な愛撫を敢えて許す暴君のようなひとみでながめていた。もう奈落の凌辱に抵抗するような気力はなかった。手向かう力も残っていなかったが、肌の奥に快楽の埋み火はなおチロチロ燃えて、最後の風にあおられて燃え上がるのを待っていた。自分は耐えられないだろうと殺生丸は知っていた。自分は必ずやこの奴隷の凌辱に耐えきれず、悲鳴をあげ、許しを乞うことだろう。

認めたくないのはただ自分がそれをのぞんでいるということだけだった。すべては自分が求め、許したことから始まったのだ。自罰的なところは本来殺生丸の本性にそぐわぬものだけに、今殺生丸が自分に強いている行為は痛々しいというより他はなかった。奈落はこの上自分に何をするつもりなのだろう?何をさせるつもりなのだろう?

「何を震えておられるのですかな」

 心のうちを見透かしたように、奈落の声が低くささやく。

「どうもせぬ。寒いだけだ」

 かろうじて顔をそむけて平静をよそおった殺生丸の肩が、そっと優しく抱きしめられる。

「おかわいそうに。わしに何をされるのか、こわがっておいでなのか」

「――ばかな・・・誰がこわがってなど」

「強がりを仰せになるのが何よりの証拠というもの、ほれ、そのように震えているではないか。まったく繊細なおひとだ」

「震えてなどないわ、きさま、よけいな口を」

「怒ったお顔も色っぽくてそそられる、どうも何から何まで罪なお方だ、のう、殺生丸さま」

「よせ、さわるな、気分がわる・・・何をする、奈落・・・奈落!」

 あられもなく足をひらかされようとするのへ、殺生丸は怒って逆らおうとした。力をこめたつもりでもかぼぞい抵抗など物の数ではない。奈落はもうあの奇怪な触手すら使わず、己が手だけで苦もなく相手の体をおさえこんだ。

「奈落!」

「おとなしく言うとおりになされよ、殺生丸」

「・・・嫌だ、放せ!」

「許しませぬ、殺生丸さま、我が儘を申されても駄目じゃ」

「放せッ、はなせ、奈落、な・・」

 だしぬけに強引な接吻に組み伏せられて、抗議の声は途絶えた。仰向けに押し倒された体の上に、奈落がのしかかってくる。口づけは行為よりもいっそう肉感的で、殺生丸が必死におさえこもうとする欲情をそそりたてた。濡れてつやめいた唇のはしを奈落は甘く噛みながら、なおもしっとりと汗ばんだ肌を愛撫し続ける。

(・・奈落・・・)

 引き締まった胸が上下し、こらえかねた激しい息づかいが響く。奈落は無抵抗に投げ出された白い肢体を押さえつけたまま含み笑いをした。

(そう、それでいい。さあ、言われたとおりに―――それともいっそ犬らしく後ろから責められるほうがよろしいかな)

(・・・・)

(どちらもおいやですか、なるほど、この期に及んで強情な)

 両の膝をふいにつかんで持ち上げられ、覚悟していたこととはいいながら殺生丸はおもわず息を呑んだ。

(さあ、足を開いて、もっと、そう、もっと、もっと)

 何をさせられようというのかわからなかった。奈落の口調は気味が悪いくらい慇懃で、その分手つきは最前よりもはるかに狂暴さを増していた。目を閉じた殺生丸の喉が低く鳴った。

(・・・っ!)

 つかまれた膝が情け容赦なく左右に開かされて下に押し付けられる。両足をほとんど真一文字になるまで押し開かれて、生まれてこの方一度もこんな無体な仕打ちにさらされたことのない体は抗議にこわばった。奈落は手をゆるめぬ。

(奈落・・・な、にを・・・)

(そのように一糸まとわぬすがたで脚を開いて悩ましげな姿で、わしを誘おうとあっては、応じないわけにはまいりませぬな、のう、殺生丸さま)

(だまれ、きさまが、無理やり、させているものを、何で・・・)

(さよう、わしがさせているのだ、殺生丸、このわしが、この手でな。何をわなないておられる、わしが楽しませて差し上げようというのだ。さあ、おとなしく命じられたとおりの格好をしてみみろ!)

 かき乱された神経に無理強いされた体位をとらされて、殺生丸の端整なおもてが苦悶にゆがむ。

(奈落・・・もうやめろ・・・あ、足が・・・)





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