目を覚ましたと同時に総毛だつような感じがあった。誰かが背中から体をはがい絞めにおさえこんでいるのだった。逃れようという本能的なしぐさから殺生丸はもがいた。
(お気がつかれたか)
声は耳のすぐ後ろから聞こえた。奈落の冷たい肌は背にぴったりとはりつき、その手は脇の下から胸の乳首をつまんでおもちゃにしていた。
(殺生丸さま)
後ろから足の間を割って相手の太ももが割り込んでくる。両脚の間に奈落のそれをはさみこまされて、羞恥に殺生丸はあえいでまた目を閉じた。
(思ったとおり―――閨のしぐさもお姿も素晴らしい)
(奈落・・・)
(わしは貴方のようでありたかった。なぜわしはこんなにも醜く卑しく、貴方は強いられて逸楽に溺れさせられていてもこんなに美しいのだろう。こうして不倶戴天の敵であるわしに身を投げ与え、抱かれ、なぶられ、もてあそばれていても、わしの勝ちだという気はすこしもせぬ)
奇妙な述懐の静かさと裏腹に、無理強いに脚の間にはさみこまされた奈落のそれが乱暴にぐいと押しあげられる。脚を閉じられないその姿勢を強いられるのが殺生丸の羞恥心を刺激し、ひどく無防備な気分をかきたてる。のけぞってあがく白い肉体を不気味な肉芽がからめとった。
(我慢なされ、殺生丸さま、わしが与えるまでは、我慢してもらわねば)
(何を・・・アッ)
奈落の手がゆっくりと下腹をなぞり、殺生丸の全身が硬直した。
(わしは貴方を犯したいのではない。どんな方法でもいい、貴方と戦い、貴方を屈服させ、わしのものにしたいのだ。だのにこんなときでさえ、こんな姿をさらしていてさえ、貴方は勝者でわしは負け犬だ。なぜだ、殺生丸、なぜなのだ!)
あやしく素肌にはりつくヒルのようなおぞましい感触が白い足首をとらえ、膝を折らせられて、殺生丸は後ろを向いたまま奈落の脚の上にまたがらせられるような格好になった。足首に巻きついたそれはそのまま殺生丸の脚のつけねに伸びてからみつき、膝を伸ばせないようにゆるやかに縛りつけてしまう。
それはひどく淫らななまめかしい姿態であった。奈落がなおも殺生丸の体を手放さず痴情の限りを尽くそうとしていることは明らかであった。無理強いに開かされている脚の間に奈落の手が伸びる。不安定な体が支えを求めて後ろへ倒れこむのをもう片方の腕が抱きとめる。
(貴方に悲鳴をあげさせてやろう。貴方にひとときの忘却を与え、せめて今、このときだけは、わしが貴方よりも強いのだと思えるように。一時のはかない勝利でもいい、わしは、貴方に悲鳴をあげさせてやる。貴方様をひざまづかせ、快楽と愉悦に溺れ爛らせ、もう許してくれと哀願させてやる)
(奈落・・・・)
(覚悟なされよ―――殺生丸)
それは苦痛と快楽の間のきわどい綱わたり、嗜虐にいろどられた悩ましい愛の行為であった。腕をうしろにまわされ、脚をしばられてなすがままの若い肉体から、奈落の手が訴えるようななまめかしいあえぎ声を絞りだす。
(四十八手の理非知らずとは、今貴方がされていることだ。ご存知あるまい、こんないかがわしいされ方はの)
(あ・・・アッ―――)
縛られて向き合わされた体が強引に引き寄せられ、縛られてなおもあらがう脚が押し開かれて奈落の目にさらされる。殺生丸の誇りたかい頭がのけぞり、先には透きとおるようだった白い頬がとらされている姿態へのあまりの羞恥に桜色に染まる。
(よせ・・・やめろ・・・奈落・・・アウッ)
(ふふ・・・なめて差し上げようか、殺生丸さま。それとも、ここをこうして)
触れられただけで火傷したように殺生丸の体が跳ね上がった。
(嫌・・・よせ・・・ん・・・)
逃げようもなく持ち上げられた体を下から欲情の楔がつらぬき、身動きもできぬいたみに殺生丸はくちびるを噛んだ。
(そら、よろしかろうが・・・殺生丸さま・・・いいとお云いなされ、さあ・・・さあ!)
(あふっ、やめ・・やめろっ、あ、くるし・・・)
(こんなみだらなお姿を曝しておきながら、やめろですと?ほんとうは感じている癖に、素直でないな)
恥ずかしさにその場で死にたかったが、どんなに懸命に脚を閉じようとしても、縛られた足首はどうにもならず、ひきよせられる腰は逃れようとあがくたびに引き据えられ、その度にほとんど拷問にも似た奈落の巧みな責めにあって、狂ったようにのたうった。
(奈落・・・奈落!)
(降参なさいますかな、殺生丸さま。悩ましそうにお口を開いて、息がお苦しそうだが)
(・・・・あっ、ああっ・・)
(綺麗なお体だ。抵抗なさってもムダなこと、ほれ、胸もこのとおり)
薄紅色の小さな尖りを奈落が面白そうにつつきまわしても、敏感な体は感じて震えこそすれ、逆らうこともできず、されるがままなのだった。
(ん・・・ん、ん・・・・)
突き上げられ、苦しがって、縛られて座らされたままの殺生丸が身をよじる。長い銀髪が乱れてくるしげに眉をよせた顔にかかるのが、こわいくらい挑発的なざわめきで奈落の目に映る。
(どうでも降参されぬおつもりか。こうしてでも)
両手が殺生丸の背をすべってすべらかな白玉のような尻にかかったと思うと、残忍な手つきでわしづかみにしてぐいと引き裂くように左右に引いた。荒々しいふるまいに殺生丸は声をあげてもがいたが、そのせいで押し入られている体にいっそう楔が深くうちこまれたので、生け贄は否応なく、からだごと自分をいたぶっている当の相手の肩にもたれかかり、引き裂かれるようないたみと強いられた快楽の波に耐え切れずうめいた。