縛妖索 二章 (四)


「よせ、無礼な、嫌、あ、・・・・」

「この期におよんで無礼はねえだろう、無礼は」

 楽しみに舌なめずりしてわざと手を引いてやりながら、妖怪はくっくっと笑った。殺生丸は腰に巻かれた手をふり払って紅潮した頬をそむけ、髪で顔を隠して、めくられたすそを申し訳程度に足の周りにひきずり寄せようとた。

妖怪は虜囚の心を巧妙にもてあそびながら、徐々にその体に火をつけ、その白い肉体が内側から高まり、悩ましいそのたかぶりに心乱れて最後に降伏させるときが来るのを待っているのだった。

「何もそう震えなくたっていいだろ、おひいさん、きれいな背筋をしてるなあ」

 妖怪の手が白い生絹の衿にかかり、えりあしから首筋をたどって背筋へと生温かい舌がなめずる。いつしか衿はくつろげられてなめらかな肩口までむき出しにされ、滑り落ちた衣はふるえる背を半ば隠していた。めったなことでは人目にさらしたこともない処女雪のような白い肌である。雑魚妖怪たちに蹂躙されたときは無我夢中でかまうゆとりもなかったが、こうして一対一で意識してそのなめるような視線に素肌をさらされると、それはいっそ蹂躙されるよりも生々しい犯される感覚に似ていた。

「・・・よせっ」

ふいに長い銀髪の中に指を差し入れられ、頭から髪の先まで指がくしけずるように動いたので、たまらなくなって殺生丸は頭をふって相手の手を振り払った。妖怪はなおも手をとめず、すべらかなその手触りを楽しむように髪のなかに指を差し込んで梳くのをやめなかったので、殺生丸の体に電流にも似た震えが走った。肌にふれられるより鋭敏な感覚が髪の地肌から全身に伝わり、それはもはや官能の疼きに似ていた。

「やめろ・・・やめ・・・・よせッ」

あやしいその感覚に耐え切れなくなったように殺生丸は激しく頭をふって抵抗し、ついには荒々しく手で払いのけた。悩ましく乱れた銀髪がむき出しの背なから胸元へからみついた。

「・・・へえ」

 満足そうな含み笑いがそれに答えた。

「初めて感じたらしいしぐさをしたな。え、おひいさん、肌にふれられるより髪をいじられるのが耐えられないなんてな、ずいぶんこまやかな神経をしてるんだなあ。そういう上品た育ちのいいところが、またたまらなくかあいいが」

「・・・・・・やめろっ、さわるな」

「ふふ、そう抵抗されるとますますいじめたい気にさせられるじゃねえか。お前、結構男をそそる方法ってやつを知ってるなあ。天成のってやつかなあ」

「・・・だまれ!」

「そうかい、そうかい、」

 敏感な髪をなぶっていた手がはなれて、ほっとして肩の力を抜いたのもつかのま―――

妖怪は相手の心の動きをちゃんと読んでいた。つと薄い絹の裾の上から、妖怪の手が背中をたどって腰の下へと伸びてきて、ゆっくりとすその下から中へと入りこむ。殺生丸の白い肌が粟立った。それは必ずしも嫌悪のためとのみはいえぬ感触であった。内に秘めた官能がかき立てられ、おさえかねた欲情が内から湧き出るのをとめることはできなかった。

「・・どうしたい。鳥肌たててるじゃねえか。まだ何にもしてねえよ。なんにもな」

いいながら、なめらかな尻を楽しむように撫でまわされるのへ、殺生丸がすくんだように全身をかたくする。妖怪の愛撫はやまず、やがてそっと秘部に沿って入りこんだ指が、奥を探り当て、ゆっくりと差し入れてくる。殺生丸は声を上げまいと唇をかみしめた。

 嬲られるとは、まさしくこういうことをいうのか。指はまるでそれ自体生命ある生き物のようにゆるやかに身体の秘所を侵し、巧みにもてあそび、あやしくその体内でうごめくたび、なぶられている虜囚ののけぞったのどから、声を殺したうめきがもれた。

 妖怪は身体の他の部分にはまったくふれていなかった。殺生丸はすくんだように座り込んだまま、抵抗することもできず、後ろからデリケートな秘めたただ一点に無理やり入れられた指がそこをいたぶり、残酷に官能をかきたてるのに耐えていた。全身の感覚のすべてが、嬲り抜かれているその一点に集中しているような気がした。もう他のことは何一つ考えられず、考えられるのはただ相手の指が自分の体の中で動いているということ、その指が自分にしている無残な仕打ちだけ・・・

痛々しく耐えているその姿すら、いっそなまめかしく妖艶だった。

指が二本に増え、三本目を強引にねじこまれるにつれ、虜囚の息づかいは徐々に荒くなってくる。

「どうしたい・・・痛いのかい。苦しいのか。ちぇっ、俺もせつないぜ、こんな有様を見せられてお預け食らってるんだからな。ちっとは感謝しろよ。体で見せてみな、俺に感謝してるってところをよ」

 嘲るように妖怪はささやく。

「教えてやってるんだぜ、どうするのかってことをさ・・・そんななまめいた紅い目元で俺を見るなよ。たまらなくなるじゃねえか、なあ」

「・・・・・あ・・」

 もはや体は相手の言うなりであった。妖怪の指がまた怪しからぬ動きをしたので、殺生丸の体が後ろに反り返った。

「いい子だな、言われたとおりしてみな、ここに力を入れて締めてみろよ、さあ」

「あ・・・あ」

 

 


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