「男に女が二人いたところで別におかしくもなかろう」
「いや、だから、それは、マズいんだよ、おれは」
犬夜叉は困ってへどもどした。
「二人とも側にはべらせておけばいい・・・そんなに気に入っているのなら」
「は、はべらせてって、オイ・・・」
「たかが女の一人や二人」
不思議そうに兄は言った。
「悩むようなことでもあるまい」
「・・・・そ、そう簡単には行かねえんだよ、女ってのはよ・・・」
「なぜ。女同士で殺しあうからか」
「・・・・・お前、いったいどういう女と付き合ってきたんだ。妖怪の女ってのは、男争って殺しあうのかよ」
「一人の男の愛を争う女は、みんな互いに殺しあうものだ」
思いがけないことを殺生丸は云った。弟は今さらながら兄の洞察力の鋭さにおどろいた。
「うまくあしらって満足させてやればいい。お前の力量次第だが」
「・・・・いや、あの」
犬夜叉は言葉に詰まった。殺生丸には、犬夜叉がそもそも悩む理由が全く理解できないらしかった。
「そうかもしれねえけど、女は、いつも男は自分のことだけ見ててほしいもんなんだよ。おれだって、かごめには他の男にちょっかい出されたくねえ、おれ一人の方を向いてて欲しいって思うんだからよ・・」
「・・・・?・・当然だろう。お前の女なら」
「・・・・そうじゃなくて、女のほうも、同じように思うだろ。自分一人の男でいて欲しいってさ」
「なぜそう女の思惑を気にする」
ますます不審そうに殺生丸は云った。
「だから、桔梗はほっとけねえし、かごめはおれが桔梗に気をとられたら怒ってくにに帰っちまうし・・・」
「帰るなと言えばどうだ」
「それで大人しく云うこと聞くような可愛らしい玉かよ。おれが二股かけて開き直ったりしたら、おれのほうが殺されちまわあ」
「己れの云うことにも従わぬような、そんな生意気な女のどこがいい」
「どこがいいって、そりゃその、だからどこがいいんだか俺にもうまく言えねえけど・・・」
聞いてみたところで答えが出るわけでもないものを、真剣に問い詰める兄も幼いが、問われて真面目に言葉につまる弟も子供っぽいといえばそのとおりである。
「殺生丸、お前は本物の妖怪だから、半妖だの人間だのの考えることはわからねえんだよ」
むちゃくちゃな理屈で強引に犬夜叉は言い切って話題を変えた。
「てめえこそ、妙な人間の小娘連れ歩いてるじゃねえか。ありゃいったい何でい」
「・・・・・」
「おい、まさかお前、あんなガキにホの字だってんじゃねえだろな」
「・・・ホの字」
「な、何でもねえ、だから、何であんな小娘連れてるのかって聞いてるんだよ」
「・・・・・・」
殺生丸は少し考えるふうだった。それから、ちょっと首をふった。
「わからぬ・・・・そういえば、あまり考えなかったな」
「わからぬって、お前、自分のことじゃねえか」
「誰に説明する必要もなかった」
「そりゃそうだろうけど・・・・自分が何かするときの理由とか根拠とかってやつ、考えねえのか」
「・・・別に。したいようにするだけだ」
「・・・・・・・」
「?」
「・・いや、まあ、そう言い切られると返す言葉がないけどな・・・」
犬夜叉は耳の後ろをかいた。
「んじゃあの小娘のほうは、お前のことどう思ってんだ。ばかになついてるみたいじゃねえか」
「・・・・・・・」
「お前、まさか、そういうことも考えたことないのか」
「・・・・・・・・」
犬夜叉は唖然として兄の顔を見た。
「考えたことねえのか?全然?」
「・・・・・・・・・・・・・・あまり」
とうとう犬夜叉はくすくす笑い出した。
「殺生丸―――お前、いったい、普段なに考えて暮らしてやがんだ。全然何も考えてねえのかよ。行き当たりばったりか。自分の気持ちも連れの気持ちも、全然気にならねえのか」
おかしくてたまらぬように、犬夜叉は云った。
「まったくうらやましいぜ。そういうこといろいろ想像しないですむ性格ってのはよ」
犬夜叉はまた笑った。
「お前は考えるのか、犬夜叉」
「ああ、おれはな。考えたくなくても向こうから飛び込んでくることも多いしよ。お前のことも想像することあるぜ。ダンランとかでさ」
「団欒?」
「知ってるか?家族ってのが集まって、一緒にメシ食ってホッとするんだってよ。そんで、お前と差し向かいで飯食ってるとこ思い浮かべてみたけど、ホッとするどころか、漬物取り合ってケンカしてる図ぐらいしか浮かばなくてよ・・・」
殺生丸が、声を殺して笑うのがわかった。