殺生丸の口ぶりは淡々としていたが、その口から出る屈辱のひどさはなかなか物に動じない老刀鍛冶をも驚かせるものであった。声は時折かすれて途切れたが、刀々斎は決して無理に先をうながすようなことはせず、ただしんぼうづよくそのかたわらで、殺生丸の途切れがちな打ち明け話に耳を傾けていた。
「・・・もう疲れはてて、逆らう力もなかった。向こうもそれを知っていた。かしらだったものが私を独り占めして思いのままにしたがったので、手下どもが怒って騒いでいた。最後のほうは、もう、何があったかよく覚えていない。何度目か、また誰かがのしかかってきて、もう息もつけなくて、気が遠くなりそうだった。犬夜叉が飛び込んできて、そこで、それから・・・それから・・・ああ・・・もう、何も、思い出せない・・・思い出せぬ・・・」
「わかっとる、その辺でいい、もう十分じゃよ」
「何も、思い出せぬ・・・」
「無理するな、もう何も言わんでいい、かわいそうに」
なだめるように刀々斎は云った。
「さっきのこと・・・体の中に、あの・・・あのこと、犬夜叉には、云うな・・・」
「云わねえよ、誰にもいわんて」
「思い出せぬ・・もう、何も・・・」
「わかっとる、わかっとる。ひでえ目にあったが、お前さんのせいじゃない。無理に話させて悪かったが、けどしゃべっちまったほうがいい。トゲは思い切って抜かねえと、あとで膿んじまって、辛い思いをするからな」
「約束しろ、犬夜叉には・・」
「ああ、約束する、言わねえよ、心配するな。それじゃお前さんがそいつらにいたぶられてたときに、犬夜叉が飛び込んできて救い出したってぇわけか。なるほど奴が何も話したがらねーわけだな」
「犬夜叉に・・・」
「わかっとるよ、わしは何もいわん、安心せい」
伏せてしまった相手の頭の上まで衾を引きかぶせてやりながら、刀々斎はつぶやくように言った。
「お前さんが取り乱して騒いだりせんからこっちは助かるが、本当はなんもかんもぶちまけて泣きじゃくるくらいしちまえたほうが、お前さん自身のためにゃいいんだがなー」
ため息をついて、刀々斎は立ち上がった。
「わしゃーちょっと出かけてくるよ。お前も少し疲れたろ。夜までは戻らねえからしばらく一人っきりだが大丈夫だな」
一人っきりというところに幾分力をこめて刀々斎は云った。表で愛用の牛の背にまたがって出ようとしたとき、奥の伏せた衾の陰から、初めてかすかな嗚咽が洩れ始めるのが聞こえた。