妖怪の女性には魅力がないか
人間の弥勒が人間の珊瑚にひかれる気持ちはよくわかります。しかしながら、生粋の妖怪である兄上は妖怪の女性には全然心ひかれないのでしょうか。妖怪にあこがれるはずの犬夜叉は、なぜ人間の女ばかり好きになるのでしょう。兄弟そろって妖怪の女性には人気がないのでしょうか。人間から見るとイケメンの二人も、妖怪界ではインパクトに欠けるのでしょうか?
弥勒なんかはよく人間の女に化けた妖怪にちょっかい出されてますが、犬夜叉は一度もないのです。兄上も神楽以外はないようです。七宝ちゃんもさつきちゃんに気をとられたりしますが、これも人間です。なぜ?
そもそも妖怪男と人間女のカップルは多いのに、妖怪同士、あるいは人間男と妖怪の女性とのかかわりがあまり出てこないのはなぜなんでしょうか?
36巻の原作をつらつらめくってみるに、女妖って案外数が少ないですね。逆髪の結羅、じつに曲線の多い肢体の持ち主でセクシーな妖怪でした。雷獣の飛天が連れていた半裸の女怪も色っぽかったし、神楽姐さんはもちろんですね。黒巫女椿も若さに執着するだけあってなかなかの容姿、阿毘姫さん、これまた露出の多い色っぽい格好、きついがなかなかの美女です。目だつところはそれくらいかなあ。あ、百足上臈なんてのもいたな。
妖怪が人間の女に化けたり、取り付いたり、皮をかぶったり、なんていうのはわりと出てきますね。弥勒を襲ったカマキリ妖怪、お姉さま(ウヘ)なんて言ってましたし、山犬に取り憑かれたお姫様もいました。鬼の首城の姫もそうでしたね。美人の皮をかぶって餌の人間のオスをおびき寄せるわけで、つまり不足している妖力をこれで補うわけですな。
ということは、生まれつき人間っぽい男や女の姿をとっていられる妖怪というのは、かなり妖力が強くてわりと格上の妖怪なのかも。下っ端は本性のまんま、オスメスの区別はあっても人型はとれず、まして通婚はできないということでしょう。
しかしその代わりにたまに出てくる人間型妖怪(?)は皆なかなかの別嬪さんばかり、妖怪の女性というのはどれも人間離れしているせいか、そろって妖艶な美人のようです。
これほど美女が多いのに、兄上は妖怪美人とお付き合いしたことってないのでしょうか。露出が多すぎてそそられない、同年代の女性って今一つ、豊満すぎるのが気に食わない、凶暴なのはイヤ、自分を一途に崇拝してくれる可憐な美少女が好み、さて理由はどれでしょう(笑)。
妖怪美人に共通する特徴として、みんな男に置き換えても全然困らない性格の持ち主に描かれてるということがあげられます。妖力の強さ、戦いを恐れないこと、敵への冷酷さ、人間を殺すこと道端の草を刈る如く、たまたま女性の姿かたちをしてはいますが、いわゆる人間の女性を女性たらしめている優しさ、甘さ、媚、弱さ、あるいは弱いものへの同情、母性的なところといったものは微塵も持っていません。妖力さえ拮抗するなら妖怪の女性は妖怪の男性に完全に匹敵する力を持ちます。妖怪の世界は男女差でなく妖力差で差のつく、弱肉強食ですがそれなりに平等な社会(?)といえましょう。
男を誘惑しない、というのも強い妖怪美女の一特徴です。あれだけなまめかしい体つきなんですから、まずは女の武器を使ったってよさそうなものなのに、そういうことをしないのはなぜなのか、やはり女だからといって妖怪男の側が全然手加減したりしないということによる当然の帰結なんでしょうが、男の妖怪をたらしこむ水もしたたる妖艶な年増の美女なんかが出てこないのはちょっと淋しいなあ(笑)
そういうわけで、女怪と人間男のカップルができにくいのは、このきわめてジェンダーフリーな妖怪界の基準によるもののようです(笑) 人間の男が女に期待する弱さ、そこから生まれる優しさの魅力、というのは、妖怪の女にとっては致命的なので、生き残ってる強い女怪はこういうかよわさを持っていません。たまに妖怪男が人間の女性に魅かれるのも、この女怪の持てない弱さにあるのかも。
しかし優しさが致命的なのは男の妖怪にとっても同じなので、だから人間の女性を愛した妖怪男はみんな早死にしてしまう。月夜丸しかり、地念児の父もしかり、兄弟の父君たる犬の大将もまたしかりでした。心が強くても体は弱い人間の女性を守りきれなくて死んでしまうんだろうなーと思うんです。
犬夜叉がどうにかかごめを守って切り抜けられるのは、弥勒や珊瑚らの協力もさることながら、かごめ自身の持つ妖怪をも凌ぐ強力な能力に拠るところが大きいので、その意味ではかごめは物語の中でただひとり、妖怪女の強さと人間女の優しさの両方を兼ね備えた稀有の存在です。だからヒロインなんだろうなー。
兄上がりんちゃんに魅かれるのは、りんちゃんがこの人間の女性の最大の弱点であり同時に強みでもあるかよわくて保護したくなる、という点を最大限にそなえているからかもしれません。可愛くて口答えなんかしないしな。同じ人間でも、かごめや珊瑚ではこうはいかんでしょう(原作ではということですが) 同時に兄上がこの優しさという命取りのワナに少しずつはまりかけているのも、なんとなく見えてくるような気がします。
守るものなんかない!と映画3で兄上は言い切りますが、守るものがあると強くなれる一方の犬夜叉と違い、守るものがある、優しくなりたい相手を持つことで、失うものもあることを本能的に察知した兄上の内心の抵抗がそう言わせたのかもなーなんて思いました。
兄上が今に至るまで女性を知らない(笑)というのはさすがにちょっと考えにくいと個人的には思いますが、知らなくっても別に困らなさそうですな。犬夜叉とそういう話をしたことってないのかな。ないだろうなあ。
犬夜叉は女の子なんか知らないっぽいですから、そっけなくても兄は兄だし、ほんとはこういう男ならではの女性オフリミットのあけすけな会話をしてみたいこともあったでしょうが、きっと兄上のほうは“貴様と男同士の話などするつもりはない”なーんて冷たくあしらったような気がする。
兄貴なんだから、手ほどきの相手くらい見立ててやればいいのに、なーんて思うのは、私の勝手な思い込みか(笑)犬夜叉も、てめえに女あてがわれるほどおちぶれちゃいねーよ、と言い返しそうですしねー。
なんだかんだいって、好みのうるさいところはよく似たお二人なのでした。