犬夜叉と兄上について


犬夜叉って、本っ当に本心から半妖であることを引け目に感じているのかなー、と不思議に思うことがあります。半妖じゃ弱いから、父上みたいになりたいから、で妖怪になりたい。それはよくわかります。しかし、弟くんは本当は今の自分自身をどう感じているのでしょうかねー。

口では半妖じゃ弱いからとか、人間になるときがあるから、とかいろいろ言いますが、犬夜叉は自分でそうと信じているほどコンプレックスというものを妖怪に対して持ってないように私には思えることが時々あります。

刀々斎の前で兄弟が戦う場面がありますね。そのとき殺生丸は風の傷なんか読み取るのは造作もないわ、なんてうそぶきますが、そのとき犬夜叉がどう思ったかというと、“殺生丸にできて俺にできないわけがあるか!”と。妖怪と半妖の差、半妖だからという引け目を心の底では感じていないからこそ出てきた言葉でしょう。本音は思わず口を突いて出るものです。兄貴にできて弟の俺にできないはずない!って思ったわけですね。赤の他人だったらこうは言わんでしょうから(笑)対等だと思ってると同時に、やっぱり兄弟だと思っていることが察せられます。だから最後まで刀を振り切れないんだな。

で、見てると兄上は弟のこういう対等にかまえて突っ張ってくるところを、感心半分、可愛くないっという気持ち半分、ひじょーに複雑に思ってるんじゃないかなーと思います。

兄上が一度弟と戦ったとき、毒の爪で腕をつかんでて、離さないと腕が溶けおちるぞ、なーんていう場面がありますね。犬夜叉はおとなしく手を離すまいことか、“その前にてめえが真っ二つだ!”なんつって、もうごり押しの無理押しでむちゃくちゃに押し返す。そのときの兄上のセリフが「・・・いやなやつだ」(笑)

これ、実にもう、このたった一言で殺生丸の弟に対するあらゆる気持ちの全てをあらわしていて、なんともうまい台詞だと思います。こういう野蛮な相手って嫌いさ、という響き、可愛げのないやつだ、というニュアンス、それでいてどこかで相手の手ごわさを認めているような微妙な気持ち、すべてがこもっているのが何ともいえない(笑)

ま、兄上のような優等生タイプは弟くんのような八方破れで強引で野性的(^^;)こちらの意表を突くようなタイプを苦手とする、ということは根底にはありましょう。口に出しては言わないけど、負けず嫌いだから(笑)

しかしこの“・・・いやなやつだ”という言い方には、あくまで屈しない弟に対する不快まじりの感嘆が確かにひそんでいるような気がいたします。もちろん腹は立つのでしょうね。実際に戦えば自分より弱いわけですから、ふん、弱いくせして生意気で、可愛くない!と兄上は思うんだろうなー。

可愛げのないやつだ、という気持ちがあるということは、犬くんがおとなしくわかったよ、といって刀を渡せば可愛い、という反応になるわけですから、弟らしく、半妖らしく、兄貴をたてて従ってくれれば、兄上はそれでいいわけなのか。半妖は半妖らしく地を這え!なんて言ってるのも同じ理屈だなー。

ぜんたい相手が可愛いとき、すなわち素直に自分より下についてくれば、殺生丸はわりと寛容なようです。りんちゃんしかり、邪見しかり、神楽も、火の国の門の牛頭馬頭なんかもそうでしょう。しかしたてつく相手は許せない。相手が女のかごめでもチビの琥珀でも容赦はしません。

そういう点からいくと、弟は生意気にも自分に張り合って、どうしても下につこうとしない、我慢ならない相手です。犬夜叉が“殺生丸にできて俺にできないはずあるか”と思うのに対し、殺生丸は“お前と私ではもともと出来が違うのだ!”と高飛車に決めつけます。たまたま犬夜叉は半妖ですから、兄は薄汚い半妖が!なんてひどいこと言っておとしめますが、犬夜叉が妖怪だったとしても、兄上の態度は変わらないんじゃないかという気もしたりします。

半妖かどうかじゃなくて、そういう自分とはりあい、半妖の劣等感を感じない犬夜叉の勝気さが気位の高い殺生丸にはカチンと来るんじゃないかなと思うのです。

出来が違う、というのはずいぶんな表現ですが、殺生丸は自分に劣等感を感じてない(ようにみえる)犬夜叉に対して、どうやったって自分にかないっこないんだ、それを認めろ、という、あくまで自分の優越を主張してるんだと思います。逆にいえば、その優越がおびやかされているからそう主張したくなるわけで、その理由は言うまでもなく妖刀鉄砕牙が自分のものでない、ということにあるわけですね。その殺生丸の優越が、犬夜叉が風の傷を読み取ったことにより、見事にくつがえされてしまうのはご存知のとおり。

直後のりんちゃん登場と重なるので、この後殺生丸がやたらと犬夜叉を追っかけなくなったり、心持ちやさしくなったのはりんちゃんのおかげだー、という説が一般的(笑)で、それはその通りだと思いますが、殺生丸がはっきりと犬夜叉を憎むべき――あるいは憎むに足るだけの力を持つ相手として認識したのは犬夜叉自身のこの戦いぶりにもおおいによるのでしょうねー。

犬夜叉をただ半妖だから目障りでうるさい死ね、というのでなくなってきていることは、変化した犬夜叉を止めただけで立ち去ったことでもわかります。手加減した理由を問われて、自分が何者かわからない奴殺してもしょうがない、という。てことは、やっぱり犬夜叉には自分が犬夜叉という自覚があってほしい、その弟である犬夜叉をこそ斬りたい、という心があるのでしょうねー。斬られちゃうほうは自覚があろうとなかろうと関係ないわけですから。

あるいはまた鉄砕牙を使いこなす犬夜叉の強さに勝ちたい。それには自意識もない変化の化け物をただ殺しても自分にとっては意味がない。犬夜叉と真の力を出し切った戦いをしていてこそ殺した、という手ごたえが感じられるし、自分の心の中でも、“犬夜叉“を殺したといえる、と思ってるのかも。ううーむ、複雑。

一方、犬夜叉の気持ちはもっとシンプルで単純です。百鬼蝙蝠と戦ったとき、紫織ちゃんのお母さんとの会話に、“妖怪は半妖を絶対仲間とは認めない、たとえ身内だってな”、という言葉が出てきます。このときの犬夜叉の頭に異母兄たる殺生丸があったことは間違いありません。ほんとは兄上に認めてもらいたかったんでしょうねー。みんなに半妖といってつまはじきされても、兄だけは身内なんだから認めてくれるかも、なんていう淡い期待を持ったこともあったのかもしれません。ていうか、持って当然だよな、人間の感覚なら。同時に、犬夜叉が、自分が兄に認めてもらえないのはひとえに自分が半妖だからというその理由だけだ、と思っていることもわかるとおもうんですね。

しかし、殺生丸が犬夜叉に優しくないのは、案外その身内だから、ということもあるかもしれないですね。骨肉相食むの例えもあるとおり、まったくの他人より骨肉、身内の間柄というものはなかなか複雑な感情を呼び起こすものです。赤の他人なら切り捨てもできましょうが、なまじ父を同じくするだけに、半妖と思っても別れもならず、兄弟と思っても認めもできない。生意気で気に食わないと思っても、二人の間に父の姿がある限りやっぱり兄弟の絆は切れないのです。殺生丸が自分のことを兄と呼びながら犬夜叉に死ね!という気持ち、なんか理解できるような気がします。こういうややこしい感情を全部ひっくるめてぶっちぎるには、もう殺すっきゃないんだろうなと^^;)ゞ

つまりは、殺さなければ切れないほど深い感情が(少なくとも兄の側には)あるんだ、ということなのかもしれません。

封印される前の、犬夜叉が小さい頃から殺生丸が知り合いだったことは、会話をみれば明らかです。“相変わらず攻め方が幼いな”なーんてせせら笑われてるところを見ると、昔っから犬君は兄上に突っかかっていたんでしょう。残念ながら鉄砕牙を手にする前の犬夜叉では全然太刀打ちできず、多分に弟君は兄君のおもちゃだったと想像されます。おお、おもちゃ時代が見てみたいぞ(笑)

しかしいくら匂いでわかるとはいえ、冥加も知らなかった朔の犬夜叉を見ても驚かない(犬夜叉も見られて驚かない)ところを見ると、兄上は犬夜叉が隠しとおしていた人間の姿を知る機会もあるほど近くにいたわけで、この二人って案外ずいぶん身近にいたんじゃないかなー。空も飛べない子供の犬夜叉のほうでは探しようがありませんから、てことは兄上のほうから時々探しては様子を見に来たんでしょうか。そうか、犬くんが子供の頃は、死ねってことにはならなかったのか。まだちっこくて敵にもならなかったからかな。兄のほうから追いかけまわして殺す、ってことにもならなかったのか。

もしかすると父の墓の前で鉄砕牙を手に入れたときに初めて、もう犬夜叉も一人前らしくなったようだし、鉄砕牙も手に入るし、もう十分待ったんだからここらで片付けてやる、という気になったのかもしれませんね。もし封印以前に本気で殺生丸が犬夜叉を襲ってたら、絶対助からなかったこと間違いなしだし、その弟が生きてこれたってことは、兄上は本気で弟を殺そうとしたことってなかったのかも、と思うのです。あの父の体内での刀争いのときまでは。

鉄砕牙のことがあるまでは、兄上の優越は揺るがなかったわけですが、異母弟犬夜叉が鉄砕牙を受け継いで、初めて殺生丸は弟を対等の相手、すなわち敵とみなすようになったのではないかと思います。もっとも兄も弟同様、鉄砕牙が使えないからといっていたずらにコンプレックスを感じたり、ということは全然ないようですね。

 コンプレックスというのは、本来自分の弱点を認められず、そこから目をそむけて逃げようとする心の動きをいうんだそうですが、兄上の、刀が使えなければ人間の手をくっつけたり、ダメなら他の剣を作ったり、弟の、半妖と侮られても自分を隠さず堂々とふるまうという行動は、逃げるという心理からは程遠いものです。

犬夜叉といい、殺生丸といい、こういう無用のコンプレックスにふりまわされずに、現実に勇気をもって正面から立ち向かうという気性の強さを備えているところはよく似ています。こういう自我の強さ、好きだなあ。

 

 




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