なぜ自分の牙で刀を作らせないのか
鉄砕牙に匹敵する刀を作れ、と刀々斎に迫って、作る気ないよーだ、と逃げられてしまう殺生丸さま。ケチ!いいじゃん、作ってあげたって!殺生丸さまのどこが不満だっていうのよ、刀々斎!と思ったのは私だけ?
しかしなぜ、殺生丸は悟心鬼の牙なんぞで刀を打たせたのでしょう。そもそも、刀を打たせるには原材料持参でないといけないのでしょうか。
殺生丸はれっきとした(という表現も妙だけど)化け犬なのですから、自分の牙を刀々斎にくれてやって、これで作れ、といってもいいような気がします。犬夜叉もそうですが、牙って一晩で生え変わるようですから、別に引っこ抜いたからといって困るようでもない。
でも、父上の骨のお姿を見ると、片方の牙は途中から切られてなくなっているんですね。ということはまさしくその牙が刀に使われたからでしょうが、同時にその牙を与えたあと、新しい牙は生えてこなかった、ということになります。
十六夜さんと知り合った頃に刀を作ったわけですから、その時牙を折り取って以来、ずっと片牙(?)だったわけで、これはなかなか意味深です。
牙が生え変わるのは若い頃だけで、老化(!)すると妖怪でも生え変わりは遅くなったり生えなくなったりするのか?この考えはいやしくもロマンティックなかっこいい父と殺カップルを推賞するものとしてあるまじき意見なので却下(^^;)ゞ
もう一つの考え方は、名刀の材料になるほどの優れた妖力をそなえた牙は、年月経た大妖怪でなければ到底持ち得ないので、殺生丸さまといえどもまだ若すぎてそこまでに至っていない、ということです。そして父上は自ら折った牙に手持ちの妖力のかなりの部分を与えてしまったので、さしもの父上も妖力は回復しても、そのあとにはもう同じような牙は生えてこなかった、というのが穏当な説明かなと思います。
犬の妖怪にとって牙の片方を失うというのは大きな痛手です。お父上にしても一世一代の賭けだったことでしょう。十六夜さんへの愛がそれだけ深かったということでしょうし、その彼女とまだ見ぬ息子を愛して、最後まで守り抜いて死ぬというのもよく筋がとおっています。
また刀々斎もよく父君の期待に応えたわけで、殺生丸もその点は買っていると思います。だからこそ刀々斎にまず刀を求めにいったんでしょうね。
逆にいえば、それほどの重みを持つ宝刀であることをよく知っていた殺生丸だからこそ、鉄砕牙が犬夜叉を選んだというのはショックだったろうなー。
もしかすると、殺生丸は刀々斎のところへ行ったとき、自分の牙を使えといったのかもしれないなーというのは私の想像です。灰刃坊のときには悟心鬼の牙を持ち込んで、これで打ち起こしてみろ、みたいなことを言ってますから、まるきり空手で刀鍛冶のところへいっても刀が作れないことは兄上も承知してたと思うんですね。もちろんこの場合は一時的にせよ鉄砕牙の妖力をしのいだ、という牙だったからこそ、わざわざ持ち込んだわけですが、であれば最初に刀々斎のところに行ったとき、空手で行ったとも考えにくい。鉄砕牙に匹敵する刀を、と望むなら、まず考え付くのは父か自分の牙でしょうし、またその自信もあったでしょう。
もしそうなら、刀々斎が逃げてしまう、というのが、兄上には解せなかったでしょうね。同じ条件で父上のためには作ってるわけですから、自分の牙の力が不足しているのでなければ、理由はなんだ、と思ってさぞ不愉快だったでしょう。
もちろんその理由というのは、父上は守るものがあって、そのために大事な牙を賭けたのに対して、守るものもなく、ただ強くなりたい、父に並びたい、という理由だけで貴重な牙をかけて(かどうかわかりませんが)、強い刀ばかり求めたがる危うさを刀々斎が不安に思ったからだというのが、私の解釈なのでした。
刀々斎の腕ですから兄上の牙でもやってできないわけはないんでしょうが、刀の材料に自分の牙を与える、ということの意味、重み、重大さが、殺生丸にはよくわかってないんじゃないのかー、ましてや親父殿ほどの妖力もまだそなわってないものを、無茶をいいよるわい、ってな感じかなー。あるいは、下手すると今の殺生丸の牙では、それこそ凶暴で猛烈に強いだけの刀になってしまって、かえって危険だと思ったのかも。いえ、あの、すべて想像ですが。
“あのバカ兄弟”なんて刀々斎がいうのは、なかなか情愛がこもっていて、刀々斎は結構犬夜叉だけでなく、兄のほうも同じように心配しているんだろうな、と思わせます。二人そろってやることなすこと無謀で無鉄砲で強引で、まったく困ったもんじゃい、くらいな気持ちの呼び方でしょう。
もっと兄上の妖力が増して、人間に優しい態度を見せるようになったら、刀々斎は新しい刀を作ってあげる気になるのかなあ。 兄上頑張れ!